同人誌後日談

目次

秘封逢引噺 / 紅魔館迷宮事件 / 虹の如き七色旋律 / 第百二十三季の妖怪人里襲撃事件 / 白玉楼の庭 / 東方スペルカードバトル / おむすびころりん / 総括


秘封逢引噺

 発行一作目にして最も二次創作分(この場合は百合)が多いのが特徴。
 コンセプトは「秘封倶楽部がいる時代の京都」を描くことでした。

 この時代は、現代と比べると近未来の話ですので、あまり古都然とした町並みもおかしいですし、
かといってあまりSFチックな未来都市である筈もありません。
 それに関東育ちの筆者にとって、"現代の京都"はイメージがあまりありませんでした。
 なので、日帰りで京都まで背景用の撮影取材を慣行。
  撮った写真を元に背景を作成しました。

大部分は京都市四条通河原町の交差点付近です。
 秘封の時代には路面電車なんか走ってるとか想像していました。

 二人が訪れて天然苺のショートケーキなど食べていた場所は、
阪急河原町駅近くの「フランソア喫茶室」という喫茶店です。
 現役の喫茶店でありますが、同時に国指定の登録有形文化財であるというレトロ感溢れるお店です。
 (店内の撮影はお店の許可を頂きました。)

 京都という都市は、古き良きものを残しつつ新しいものを取り入れるのが上手い街ですので
この風景はしばらく先まで残るかもしれません。

 二人が冒頭で使用していたのは、電子雑誌ですね。
 iPadが出る前に描いたものなので相当ダサいデザインです。

 筆者は"八雲紫とメリーは繋がっている"という説を支持しています。
 メリーは紫の事を知りませんが、紫はメリーを"外の世界での自分の代わり"として使っていて、
メリーが見聞きした情報は紫も知ることになるという仮説です。
 外見はほぼそっくり。
 メリーが夜眠っている間、幻想郷で紫が起きる感じです。
 (メリーが夜更かししていると、紫が起きるのが遅くなる、みたいに。)


紅魔館迷宮事件

 実際に原稿を描いたのは、この作品が一番初めだったりします。

 とあるイベントに合わせて製作しましたが、当日に乱丁が発覚したため販売を中止し、
後日別のイベントでやっと販売したという歴史があります。
 (それ以降、入稿時に必ず校正をするようになりました。)

 コンセプトは「紅魔館」を描くことでした。

 紅魔館の外観は萃夢想の紅魔館時計塔ステージからイメージし、
同じく玄関ロビーステージと、紅魔郷5面背景から、内装をイメージしました。
 紅魔郷エンディングでZUNさんが描いた紅魔館の外観が出てきますが、"城"のイメージです。
 ですが公式漫画などでは以降すべて萃夢想の紅魔館をイメージした作画でありますので、
こちらを踏襲させることにしました。
 城よりも宮殿や大邸宅に近い構造です。

 表紙の背景は、ドイツにあるニュンフェンブルグ宮殿のホールを参考にしました。

 本文中の背景はXYZ軸にかなり気を付けて作画していますが、細部の装飾に手を付けなかったため
何とも味気無い屋敷になってしまっているのがとても残念です。

 地下図書館は背の高い本棚が縦横に並ぶ広大な図書室として描きましたが、
最近の情報では円形図書館であるらしいと分かり、時の流れを感じます。

 事件解決の方向性も御都合主義であるので、なんちゃって事件物とも言うべきストーリーですが、
同人誌としては珍しいかな、と当時考えていたと記憶しています。

 パチュリーが持っていた"四十葉のクローバー"は、求聞史紀の記述で、てゐに出会うことで貰える
幸運がそのくらい イコール道に迷わず外に出られる程度の能力、ということで登場しました。

 あと、登場人物の性格がみんな丸くなり過ぎました。


虹の如き七色旋律

 筆者が好きなキャラの一つにプリズムリバー姉妹がいます。
 テーマ曲がすごくお気に入りであることと、キャラ設定が実は寂しく儚いものであることが理由です。
 彼女たちの設定を漫画で語りつつ話を進めるにはどのようなストーリーにすればよいのか…
と悩んだ挙句できたのが今作です。

 つまりコンセプトは「プリズムリバー姉妹のキャラ設定」を描くことでした。

 そしたら
「あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!おれはプリズムリバー本を描いていたと思ったらいつのまにかアリスが主人公になっていた。な…何を言って(ry」
的な感じになっていました。

 初版を発行した時に付けていたペーパーに設定の解釈はすべて描いてありますので、
お持ちの方は再度読んで頂ければ。

 追加で言いますと、ZUNさんがファンからの質問に回答した際のレイラの部分の箇所、
「――って、そもそも最初は何で冥界へ行ったんだっけー?(リリカ談)」
という部分から、時が流れ三姉妹はレイラのことをすでにあまり覚えていないのではと考えています。
 (もちろん今の自分達の存在の根幹であったので、本能的には覚えています。)
 そして書籍文花帖のリリカの項から、

騒霊は生き物の騒がしさの霊 イコール騒霊三姉妹は、人間の三姉妹の生きている時の音を再現し独立させて、姿かたちを与えたモノであり、
また彼女たちの出す音も"音の幽霊(騒霊)"で、
"レイラが生きている時の音を再現させることによりレイラ(の幻、騒霊)を再現させる"
ことができると考えました。

 説明が下手で申し訳ありませんが、
 ・"生きている時"の音を独立させたものが騒霊("騒がしさの幽霊")
 ・"騒がしさの幽霊"を演奏し統合(独立の逆の過程)させることにより、"生きている時"を再現できる
ということです。

 あと、"騒霊の存在意義"云々は、花映塚リリカエンディングを参照してください。


第百二十三季の妖怪人里襲撃事件

 筆者の作品で一番人気があるのが今作。
 コンセプトは「人間と妖怪の信頼関係」と「人間の里の描写」を描くことでした。

 幻想郷が結界によって閉鎖され、幻想郷内の人間と妖怪のバランスを保たなければならなくなり、
結果として妖怪は人間を好き勝手に襲えなくなってしまった。
 もちろんスペカバトルなどの決闘を代わりにするとしても、それができない普通の人間が多く住む
人間の里を妖怪が襲うというのは、看過できないくらいの殺人が行われる可能性もあるルール違反行為。
 人間の実力者が本気で妖怪退治をしてくるか、
その前に他の妖怪からルール違反に対するお仕置きや処罰が下るのが暗黙の了解となっている。
 そこで、スペカバトルが"人間と妖怪の疑似的殺し合い"なのと同じく、
人里にいたずらを仕掛けるという"疑似的人里襲撃"を行うというグレーゾーンを突いた作戦に出た。
 (いたずらとはつまり、直接人間に危害を加えたり接触したりしないで、困らせる程度の範囲で襲うこと。)

 これが種明かしの解説です。

 バカルテット(あ、余談ですがこの呼称を初めて使ったのって筆者なんじゃないでしょうか。クーリエさんのお絵描き掲示板で。)と三妖精、橙という小妖怪ばかり集まったのもいたずら目的だからです。
 どうやって人間を困らせようか、そしてどうやって逃げ、人間側はどうやって追い詰めようか、と
考えるのが面白かったと記憶しています。

 キモとなるのがサニーの能力ですが、これが日中限定ではないのではないかと思い始めたため、サイト中に
改訂版を載せるという阿呆な行為までしました。

 モブキャラや里長、人間の実力者の方々などオリジナル分が多い箇所もあり、これが人によっては邪魔と感じるようです。

 でも小兎姫は是非描きたかった。エンディングでの服装も描けてよかった。

 人里の描写は、見直すとまた碁盤の目状の町になってしまって味気無い感じがします。
 もっと道が狭くて、ごみごみして古汚くて、ノスタルジックな感じのイメージなんて描けないよ!
と苦悩した日々が思い出されます。

 それと、これを言ったらもう作品が始まらないのですが、
ZUNさん曰く「霊夢は基本的に人助けをしません」らしいので、慧音に助力を乞われても
霊夢は人里を助けたかな?とすら考えます。
 「そんなもんあんたらで解決しなさいよ!」とか追い返す姿もしっくりきますね。


白玉楼の庭

 初めて短編のノリで描いた作品。
 コンセプトは「枯山水の庭」を描くことでした。

 ストーリーもそれほど無く、あくまで背景として庭を描くのが目的でした。
 でも遠近感とかアングルに違和感があり、そもそも石に大して描きこみもしておらず
未熟さが見てとれます。

 枯山水として最も著名なのは京都龍安寺の石庭ですのでそれを参考にしつつ、
一対の松を植えました。
 松同士の間隔をもう少し詰めた方がよかったですね。
 砂紋も流水をよくイメージして描いたものです。

 普通にスコップを使う妖夢を描くのがすごく新鮮でした。

 萃香が言っているのは、昔話の「大工と鬼六」のことです。
 トム・ティット・トットのことも興味があれば調べてみて下さい。


東方スペルカードバトル

 スペルカード考察を漫画化したもの。
 コンセプトは「スペルカードバトル」を描くことでした。
 もちろん、格闘ではなく、ゲーム本編で行われている弾幕STGです。

 冒頭からいきなり戦闘が始まっており、終始それだけで本文が進み、最終的にストーリーが分かるようになっています。
 ストーリーなんで無いようなものですね。

 弾幕は「六角大王」というソフトで作成したものを強引にキャプチャして使用しています。
 漫画の描写の中に、輪郭の無い弾幕画像を入れた事により、見た目違和感を感じる人もいたようです。
 弾幕一つ一つに輪郭入れるのは非常な手間ですし、余計画面がごちゃごちゃして見にくくなると思ったのでこうしたんですがね。

 あと、永夜抄4面の弾幕パターンを参考に3D化したのですが、アングルが変わったり、その一部分切り取られた状態でコマ割りの中に収まっていると、弾幕の美しさも何も無くなってしまいました。
 弾幕も中身スカスカなものがありますし、この点で非常に心残りです。
 3Dでかつパターン化されており、また美しいという究極の弾幕は私には想像もできません。

 それに弾幕を避けている描写も、キャラの動作が不明瞭で漠然としてしまっているところがあり、
結局"見ていてよくわからない"感じが増してしまいました。

 ……うーん、こう書くと、
全くよく描けていないですね。

 そもそもスペカバトルを文字でなく絵として描いて読者に分かってもらおうとしているのに
その絵が分かりにくいというのは致命的です。
 私には難しいコンセプトを選んでしまったようです。

 大雑把に要点をまとめると、

 ・決闘者両者は基本的には相手の弾幕を避けつつ、自分も相手に対し弾幕を張る
 ・スペカは、積極的な使い方としては戦略的に発動させ、消極的な使い方としては緊急回避として発動させる
 ・スペカを発動させる際には、まず霊撃を放ち相手の弾幕を打ち消し、その上でスペカを発動させる宣言を行う
 ・被弾した場合、攻撃側が一旦弾幕を張るのを中断するか、被弾側が簡易な霊撃(ボム数にカウントされない)を放ち、
  数秒の猶予で態勢を整え直してから再開する
 ・投了(負けを認めること)は自己申告制。遊びなので、みんな基本的に"疲れたら止める"程度。
  体力が続く限り続けることもできるが、それで死んでも自己責任。

 こんな感じです。


おむすびころりん

 前巻の発行から時間が空いたため売れ行きは悪かったのですが、個人的には最も出来が良いと思う話です。
 コンセプトは「幻想郷の風景」を描くことでした。

 このコンセプトを達成するために過去の地理考察を引っ張り出し、
平面の地理だけでなく上下方向の世界にも足を向けるため、
世界観の最も上空に位置する天界の住人、天子が主人公に抜擢された訳です。
 (本当はより上空に月世界があるのですが、綿月姉妹にこのネタを担当させるのは違和感があったので。)
 そして天子が天界から旧地獄に行くための理由としておむすびころりんと結びつけました。
(…お結びだけに(ボソッ)

 ラストで天子が熱弁していた「完全なる三位一体」は後から付け足したこじつけです。
 とは言え、幻想郷中おむすびを追いかけていたらページが幾らあっても足りません。
 なので地上の描写は短くし、巻末に地理想像図の解説を載せた訳です。
 つまり巻末付録が私が最も描きたかったものです(オイ

 場所の切り替わりが激しいためストーリーの中身が薄いのが欠点ですね。
 …雰囲気は出てると思うんですけどねぇ。


総括

 今まで出してきた同人誌について総括させていただきます。

 あえてコンセプトをまとめるとすると、
 「東方Project原作と比較して違和感が無い(矛盾が無い)こと」でした。

 このコンセプトを達成するために、考察を行った上で物語を構築したり、
描写を決定したりしていました。
 そしてこのコンセプトはサークル活動後半になるにつれより厳密さを求めるようになります。
 それは、身の程知らずも甚だしいのですが、
 「東方Project1次創作のレベルを目指す」
つまり原作漫画が目標だということです。

 初期の頃は2次創作ネタを取り入れたり、原作設定を考慮すると違和感がある場面が多かったですね。
(秘封なんか直接その発言をしていますし、紅魔館の話でもオチに使っています。
 また紅魔館の話はキャラクタの性格が原作離れしています。人里の話も違和感や矛盾があります。)
 スペカバトルやおむすびころりんなどでようやく、2次創作的なネタが無くなり、
原作との矛盾が少なくなったかな、と自負しています。
(スペカバトルは漫画としては非常に残念な出来になってしまいましたが…ね。)


 また、原作と比較して矛盾が無いことを目指す方法の一つとして、
「過去話を描かない」というものがありました。

 過去とは過ぎ去った出来事であり、その"結果"がこの世にすでに現れている(現れていた)ものです。
 キャラ設定などで言及される各キャラクタの過去話は物語の骨組み程度の密度であり、
漫画のストーリーにするには肉付けをしなければなりません。
 想像や考察によって肉付けしていく訳です。
 しかし、過去話の出来事はすでに"結果"がこの世にある筈と言いました。
 キャラ設定などの公式設定(骨組み)も、2次創作者の想像・考察した設定(肉付け)も、
この"結果"についての情報と言う訳です。
 では、この"結果"と、我々の創った肉付け設定は、矛盾は無いのでしょうか?
 もしキャラ設定で語られた内容より詳細な過去話の肉付けがZUNさんの頭の中にあった場合、
ZUNさんの肉付け設定と2次創作者の肉付け設定に差は無いのでしょうか?
 それを確かめる方法はまずもってありません。
 2次創作者は、自ら創った過去話の肉付けが"間違い"であっても
それを確認することもできずに使用するしかないのです。
 その"間違い"とはすなわち"矛盾"です。
 原作と比較して矛盾が無いようにと気を付けている私にとって、
この矛盾は如何ともし難いものです。
 公式情報の穴埋めなので、前後の文脈やキャラクタの性格などから推測できる部分もありますが、
ごっそり説明が抜け落ちている期間を正確に考察することは困難です。
 ならば最初から過去話は描かない!と決めたのです。

 それに比べて、現在・未来の話は、今ある公式情報(キャラ設定や公式漫画、ゲーム本編など)
を厳守すれば、"間違い"にはなりません。
 例えばプリズムリバーの話は、彼女達の過去について言及してはいますが、
あくまで舞台は現在であり、作品内でアリスが彼女達の考察をしているという体裁です。
(だから考察が間違っていても、それはアリスが間違ったことになるのです。
私が間違ったのではありません!と言い訳ができます。)
 未来はあらゆる可能性を許容しているのです。
 既出の公式設定に加え未知の公式情報まで厳守しなければならない過去話と比べ
現在・未来の話には自由度があります。

 とは言え、あまりに突拍子も無い出来事は、矛盾が無いとしても違和感が残ります。
 なのでそこは極力考察を行い、東方Projectの世界観と違和感が少なくなるように努力しているのです。
 あまりにも自己満足的な考えだと我ながら思いますが、
「東方Project1次創作のレベルを目指す」に当たって、
この様な心づもりで創作を行っておりました。
 そう言う意味で、おむすびころりんが最も違和感が無い出来栄えであると自惚れています。

 蛇足ですが、正確に言えば私が目指したのは2.0次創作です。
 それは他者の2次創作で使用された独自設定・ネタを一切含まない、
私一人の思考・考察でのみ構成された、原作完全準拠の創作という意味です。
 原作から内容が遠ざかるにつれ、他人の2次創作ネタが入るにつれ、
2次創作は2.1次とか2.3次とかになっていきますので。


 あと、よく言われたのが、
構成が同じ(ストーリーの区切りで空白ページを挿入する、ラスト4ページでまとめる、など)です。
 世間で言われる"薄い本"よりは厚くなることが多いためと、
長くなる話の中で場面が切り替わる際に読者の頭の中をリセットするため、
時間の経過を暗に示すためです。

 背景や建物の描写は、よく3Dモデリングソフトでおおよその外観を作り、
そのキャプチャ画像をなぞって描いていました。
 なので角度によっては鋭角になりすぎる部分(曲面遠近法の様な補正をしていないので)
がありますね。

 総じて述べることと言えばこのくらいでしょうか。
 基本的に私は私の作品が大好きです。
 未だに読み返したりしています。
 自分が描きたいものが描けて、とりあえずは満足です。


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