幻想郷洗濯事情考察

お約束
早苗「な、なんでこのページの絵だけデフォルメ化されてないのですかっ!?」

筆者「需要あるかもと思って…。」

神奈子「よくやった。」

  という訳で。
  元々は、「幻想郷食料事情考察」に関連して、
食器などの後片付け、台所掃除などを考察しようとしていた。
  そうして調べていたところ、洗濯、洗剤、入浴などなど
なかなか興味のあるネタに行き着いた。
  そこで、幻想郷における「洗う」行為全般に対し考察を行ってみる。

  早苗が外の世界から来た時も、日常生活において最も心配だったのが、
食べ物の問題でもファッションの問題でも無く、
衛生上の問題に直結するこれら「洗う」文化の問題であったと考えられる。

目次

石鹸の木 / 石鹸 / 食器洗い / 入浴 / 歯磨き / 衣類洗濯


石鹸の木

結論:石鹸として利用できる天然の植物があり、気候的にも幻想郷で生育可能。
食器洗い、衣類洗濯、身体を洗うのにも、洗髪にも利用できる。


  現在私たちが主に使っている石鹸は、工業的に精製した物質を化学的に反応させることで
製造される、界面活性作用及び殺菌作用を持つ物質である。

  しかし世の中には、この界面活性作用を持つ物質を元から含んでいる天然の植物も存在する。
  世界中にかなりの種類が存在するのだが、その中でも古くから日本でも使用されていた
二つの植物を紹介する。

  1. ムクロジ
    ムクロジ科ムクロジ属の落葉樹。
    本州の新潟〜茨城以西の山間部に分布している。
    果実の果皮にサポニンを多く含む。
  2. サイカチ
    ジャケツイバラ科サイカチ属の落葉樹。
    本州、四国、九州の山間部に分布している。
    豆果を包む鞘にサポニンを多く含む。

  どちらの木も果実の皮にサポニンなる物質を含んでおり、それにより石鹸の効果がある。
  その生育分布を見ても、幻想郷でこれらの木が育つには問題ない気候のようである。

  では、サポニンとは如何なる物質なのであろうか。

  サポニンとは、水に溶けて石鹸の様な発砲作用を示す物質の総称であるという。
  生物の体内に入った場合には悪影響を起こす。
  特に魚に対して毒性を持つことから、例え天然の洗剤だとしても、洗濯に使用した後の水
を川に流すのは止めた方がいい。 環境にも良くない。
  サポニンが含まれる植物は意外と多く、ブドウの果実の皮にも含まれている。
  しかし前述したムクロジとサイカチはサポニンを高濃度で含んでいるため、
特に発砲作用が強く、それゆえ古くから洗剤として用いられてきたのである。
  現代でも、これらの植物を洗剤として使用している国は存在する。

  使用方法としては、前述したようにその果実の皮(果実の鞘)を使用する。
  果皮をそのまま、もしくは乾燥させたものを砕いて、布袋に入れる。
  使用時は、布袋のまま水で湿らせて揉む。
  すると泡が出てくるという訳だ。

結構泡立つのです

  使用用途としては、ほぼ万能である。
  界面活性作用を持つことから、煤【すす】汚れなどもきれいに落ちる。
  食器洗い、衣類洗濯、身体を洗うのにも、洗髪にも利用できる。

石鹸

結論:中世レベルの石鹸なら製造可能か。
塩の入手が困難なため、苛性ソーダを使用した工業的製造は不可能。

食器洗い、衣類洗濯、身体を洗うのにも、洗髪にも利用できる。


  石鹸は、動植物の油脂とアルカリ性物質とを化学反応させて作られる。
  記録が残っている中では、石鹸の歴史は1世紀頃までさかのぼるのだ。
  化学反応としても複雑なものではない。
  幻想郷で石鹸を作る際に何が一番問題になるかと言うと、原料の問題なのだ。
  前述したように、石鹸は油脂とアルカリで作られる。

  油脂は、動物性でも植物性でも良い。
  時代や場所により、色々な油脂が使用されている。

  アルカリが結構ネックである。
  ちなみに石鹸に使用されるアルカリは、ナトリウムやカリウムが多い。
  現在、工業的に製造される石鹸に多く使用されているのはナトリウムであり、
苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)として使用される。
  苛性ソーダはルブラン法やアンモニアソーダ法といった方法で精製されるが、
問題は製造技術ではない。
  原料である塩…塩化ナトリウムが幻想郷では入手困難な希少物質なのである。
(塩が希少な理由は、こちらの考察を参照頂きたい。)

  ではカリウムは入手できるのであろうか?
  できるのである。
  カリウムは植物の灰から入手できるのだ。
  灰には色々な成分が含まれており、植物の種類によっても成分は異なる。
  参考までに、3種類の植物の灰の成分を載せておこう。

※数値は参考値です。

  よって、幻想郷での石鹸は、アルカリとして灰を用いる方法が主流であろうと考える。
  ただカリウム石鹸は溶解性が高く、浴用石鹸として浴室に置いておくと溶けてしまう。
  普段は湿気の無い場所で保管しておく必要があるだろう。
  もしくは、液体石鹸として使用するか…である。

  製造方法は、工業的な製造方法は無理であろうから、
「釜炊き法」で行われていると考えられる。
  原料を釜の中に入れ、火を焚き、石鹸生地を練っていく方法である。

  また添加物として、香料や牛乳や蜂蜜を入れたりするのも良いかもしれない。


  最後に、歴史的資料に残る石鹸の原料の中から、幻想郷で製造可能な
石鹸レシピを挙げておこう。


食器洗い

結論:基本は水洗いだが、しつこい汚れには石鹸を使用。
コゲなどはカマドの灰をクレンザー代わりに使用。



  前述したムクロジなどの天然石鹸や、製造した石鹸も使用できる。
  しかし、それほど大量に使用できないだろう。
  職人が手作業で作る製品であり、材料もそれほど量がある訳ではない。
  基本は何でも水洗いだ。

  しつこい汚れの場合に、やっと洗剤の出番がやってくる。
  カマドや囲炉裏など、直接炭火に当てられた調理道具は
いつもススやコゲだらけである。
  洗剤以外には、灰が使用される。
  石鹸の原料にも灰が含まれるが、今回は化学的な使用方法ではない。
  クレンザーの要領で、こびりついた汚れやコゲを擦り落とすという
いたって物理的な使用方法である。
  またこれには、きめの細かい砂を用いる場合もある。
  海岸の砂浜の砂が最適だが、幻想郷には海は無いので、
河原の砂が限界であろう。
  「米炊きは釜掃除までが仕事」と言われるくらいなのだ。


入浴

結論:洗剤は少なめに、時間をかけて湯浴みする方法が主流。


  このような報告がある。
「シャンプーで髪を洗う場合、シャンプーの泡が立ったことだけで髪がきれいに
洗えていると思い込み、かえって洗い方が雑になる。」

  江戸時代、町中の銭湯は入浴客で賑わっており、
町民は世間話を兼ねて長湯をした。
  持ちこむ風呂道具といえば、後述する糠袋くらい。
  これで時間をかけて身体を丁寧に洗ったのである。

  幻想郷もかく有りたいものである。


1.身体を洗う
  前述したムクロジなどの天然石鹸や、製造した石鹸も使用できる。
  だが多くの人は、糠袋などを使用した。

  糠袋【ぬかぶくろ】とは、薄手の布袋の中に米糠【こめぬか】を入れた物で、
感触としては、「もみがら枕」と同じである。
  これを垢すりの要領で使う。
  水で濡らして身体を擦り、汚れや古い角質を擦り落とす。

  中には、「澡豆【そうず】」と呼ばれる小豆粉を一緒に入れた物もある。
  米糠を入れずに、澡豆だけ入れる場合もある。
  水に濡らして揉むと、何とも言えないグニョグニョ、プヨプヨした感触となり、
これで身体を洗ったり、マッサージしたりする。

江戸時代はこれを持って銭湯に行った

  あとは、ヘチマたわしや、軽石なども古くから用いられてきた。


2.髪を洗う
  前述したムクロジなどの天然石鹸や、製造した石鹸も使用できる。
  洗髪の習慣が起こった近世イギリスでも最初は石鹸を使っていた。
  石鹸で髪を洗うと、シャンプーと違い髪がゴワゴワすることがあるが、
どうも洗い方などでこの問題は解決するようである。
  おそらく幻想郷では石鹸シャンプーが主流なのではないか。

  さて、昔の人々は、どのように髪を洗っていたのだろうか。

  日本では髪を結う風習があったこともあり、洗髪は日課ではなかった。
  洗髪の目的は髪の汚れと油を落とすことに絞られており、
そのため、髪に様々な粉末状の物を擦りつけ、汚れや油を吸い取らせ、
その後に櫛で梳き落していた。
  髪につける物は、時代によって変わってくる。


トリートメントは皆無

  こうして見ると、どれもちょっと引くようなものばかりである。
  だが、髪の毛を櫛で丁寧に梳いている姿は見ていて艶やかである。
  やはり入浴には時間を掛けてもらいたい。

歯磨き

結論:歯ブラシは普通にある。
歯磨き粉は研磨剤が主流。



  歯磨きの習慣は、古代エジプトや、釈迦が産まれたころのインド
の時代にまでさかのぼることができる、古いものだ。
  歯ブラシや歯磨き粉の形態は、結構近世まで変わらず続けられていた。


1.歯ブラシ
  木片による歯磨きの習慣は、歯磨きの習慣が起こった黎明期から始まり、
現在でも世界中の至る地域で行われている。
  こういう言い方をすると失礼かもしれないが、
チンパンジーなども木の枝で歯をブラッシングすることがあるらしい。

  日本には中国を経由して伝来し、最初は楊枝の形式であった。
  これで歯と歯の間に詰まった汚れをこそぎ落したり、
また楊枝を噛むことで唾液を分泌させ、汚れを溶かし落としていた。

  また、これもまた古い形の歯ブラシだが、「房楊枝」というものがある。
  房楊枝(打楊枝)は、主に柳の木で作られる歯ブラシであり、
細長い木片の片方の先端を、湯で煮たり、叩いたりしながら繊維をほぐし、
ブラシ状にしたものである。

色々な形状の歯ブラシ

  この木の繊維でできたブラシ部分を使って、歯を磨くのである。
  ブラシの先がヘタってきたら、先端を切り捨て、また新たにブラシ部分を作る。
  この房楊枝の形態は江戸時代まで長く続いた。

  また、現在の歯ブラシの形をした歯ブラシも、明治以降に登場した。
  牛や豚といった動物の毛をブラシに、柄を木や竹で作った歯ブラシである。
(動物の毛を使った天然歯ブラシは現在でも一般流通しています。)
  幻想郷ではこちらのタイプの歯ブラシが主流なのではないか。
  つまり、歯を磨く行為の見た目は、外の世界と変わらないと思う。


2.歯磨き粉
  問題は歯磨き粉である。
  歯磨き粉には、文字通り粉状のものと、練り歯磨き粉の2種類に大別できる。
  歴史的にはどちらも大差ない。
  古代エジプトでは練り歯磨き粉を使用していた。
  ちなみに当時の練り歯磨き粉は、ナイル川で採れる陶土(粘土)でできていた。
  この陶土に香料その他を混ぜて、歯磨きをしていたのである。

  他にも歯磨き粉として使用されたのが、灰汁、骨灰、卵や貝の殻を粉砕した物、
塩、チョーク、きめの細かい砂などである。
  全て研磨剤としての役割を持つものとして使われた。
  また添加物として、香料、蜂蜜、ハッカといったものが加えられた場合もあった。

  江戸時代には、塩や砂による歯磨きが主流であったようである。
  だが、幻想郷において塩による歯磨きが一般的である筈が無い。
  とは言っても、歯磨き粉として使用できるようなきめの細かい砂が
海岸も砂浜も無い幻想郷で手に入るかと言うと、困難と言わざるを得ない。

  したがって幻想郷で使用される歯磨き粉は、灰汁、骨灰や卵殻などのカルシウム粉末、
陶土などが主流であると考える。
  だが、最後に付け加えさせてもらうと、これらは現在私たちが使用する歯磨き粉に対し
研磨剤の粒子の大きさが非常に大きい。
  過度な歯磨き粉の使用は、歯を極度にすり減らし、逆に悪影響があるのである。
  適切な使用量、歯磨き方法を身に付ける必要があるだろう。
  慧音先生、里での指導宜しくお願いします。


衣類洗濯

結論:自宅の水場や町中の井戸端でのたらい洗濯が主流。
洗剤には灰汁や粉末石鹸を使用。



  古来から、そして現代の一部地域でも、手洗いによる洗濯は続いている。
  主に川辺で洗濯を行っており、今でもそうして洗っている地域がある。
  町中では、近所で共有する井戸があり、そこの井戸端で世間話をしながら、
たらいの中で洗濯物を洗った。

  こうして聞くと、洗濯板でゴシゴシ擦るイメージが頭に浮かぶが、
歴史的には、踏み洗いという方法も長く続いている。

  また、洗濯板を使うと衣類が痛みそうだが、それは加減が分からないからであろう。
  汚れの少ないところ、特に気をつけて洗うところを目で見て判断できるので、
効率良く洗濯できれば洗濯機よりもむしろ衣類へのダメージは少ない、
という意見もあるようである。

世界的に見れば珍しいものではない

  洗剤は、前述したムクロジなどの天然石鹸や、製造した石鹸も使用できる。
  石鹸も、固形石鹸を粉末状にした粉末石鹸を使用する。

  また、洗剤として灰汁【あく】を用いる方法がある。
  面白いことに、灰汁を取るための「灰汁桶」という装置まで作られたのである。
  その装置というのは、木桶の側面に栓口が付いているという構造である。
  栓口は普段は栓がしてあることは言うまでもないだろうか。
  その桶の中に水と木灰を入れて混ぜ、数日間置いておく。
  すると灰の多くが桶の下に沈殿し、上には灰の上澄み液が溜まる。
  この上澄み液が「灰汁」であり、栓口の栓を抜くと
蛇口から水が出る様に、灰汁が出てくるのである。


inserted by FC2 system